医師・歯科医師の皆さんへ
支援ネットからのお願い

 

支援ネット代表世話人 高久 隆範


差別と偏見の中での闘い

 個別指導の実態は、この40年以上にわたって多くの自殺者が出たにもかかわらず何ら改善の兆はありませんでした。自殺者が出るたびに国会で問題になっても指導担当者が処分されることも、あり方が改善されることも一度もなく終わっていきました。先進的に弁護士同席を実現させる取り組みや、「行政手続法にもとづく個別指導」というスローガンも提起されたことがありましたが、実行は遅々として進んでいないのが現状です。監査による保険医取消処分については、生活権の剥奪を受け入れざるを得ない「不正行為」の代償であると思い込み、「普通ではない世界」の出来事と、多くの医師・歯科医師が思い込んできました。

 

 そのような中、歯科医師の暮石智英先生は個別指導への医師・歯科医師の同席を求める国家賠償訴訟を起こしました。地裁及び高裁判決のいずれも「敗訴」となりましたが、裁判所や被告・国側は、
①指導に従うか否かは任意である、
②指導に従わなかったことを理由に不利益な取扱をすることはない、
③指導官の見解に異論がある場合は同意できない旨を述べ、指導に従わないこととすればよい、

など、原告の主張の核心部分を大筋で認めました。暮石先生は現在、最高裁への上告手続を行っています。

 

 小児科医の溝部達子先生と眼科医の細見雅美先生は、「保険医取消」を目的とした「個別指導中断→患者調査→指導中止→監査→保険医取消」という企て=「ねらい打ち監査」とも言うべき手法によって取消処分が強行されました。とてつもない悪意をもった者が、公的権力と結託していたようです。そして多くの医師はこれを無視、黙殺を決め込みました。

 ところが、患者さんのために一生懸命診療を行った先生に対する理不尽に対し、患者さんが黙ってはいませんでした。お二人の先生は、患者さんや弁護士に背中を押されるように「処分取消」の訴訟を起こしました。処分執行停止が認められた溝部先生は、本裁判で闘っています。一審で画期的な勝訴判決を勝ちとった細見先生は、高裁で控訴審を闘っています。

 

 歯科医師の塩田勉先生は、個別指導の際に行った質問や指導官と立会人の解釈が異なった事例について回答を求めていたにもかかわらず、社会保険事務局はこれを無視して個別指導をくり返しました。社会保険事務局は、個別指導での指摘事項に関する質問に回答することなく、突然患者調査を実施し監査を始めました。塩田先生は、8日間の監査のなかで違法な患者調査や、患者調査結果にもない捏造された根拠をもって不正・不当請求を認めさせようとする監査そのものの違法性を追及して提訴しました。

 被告は準備書面で、「仮に患者調査に違法があったとしても、その違法が承継されて監査が違法となるものではない」個別指導での指摘を改善したからといって、改善されたことにはならない。全体として保険医療機関としての適格性が問題」「前回の個別指導の指摘事項を改善すれば問題はないというのであれば、医療機関は個別指導のたびに指導の抜け道を探して不当・不正な行為をすることが許されることになりかねない」という主張を行っています。

 

支援ネット結成

 指導、監査、取消処分に対して本格的な改善の運動が起きなかったことから、「指導・監査・取消処分」という一貫した巨大なシステムができあがり、個人で抵抗することはほとんど不可能な状況が続いてきました。監査という段階になると、もはや為すすべもなく処分を受け入れることしか保険医に選択肢はありませんでした。

 しかし、ようやく指導監査取消処分に関して、司法の場で闘う保険医が登場してきたのです。そのような訴訟を傍観するだけでは、指導監査の改善など絶対あり得ないという思いから、去る2008年(平成20年)8月3日、4人の原告をはじめ各地で指導・監査改善に取り組んでいる関係者が集まり、歴史的な邂逅を経て「指導監査 処分取消訴訟支援ネット」を結成するに至りました。

 そして、9月23日には東京に14府県から53名が集い、訴訟支援集会を開催しました。支援集会では、原告や弁護士から監査の違法性やそれぞれの訴訟の争点などについて報告が行われ、支援の輪を全国に広げることを確認しました。

 支援ネットは、長年保険医を苦しめてきた「指導・監査・取消処分」という構造自体を、訴訟支援を通じて根本的に変えることを考えています。また、指導監査の闇の世界でどのような悪行が行われ、どのような人権侵害が隠蔽されてきたか、またどのような者たちがそれに荷担してきたのかも白日の下にさらすことを使命と考えています。さらに、今後おこるであろう不当な指導監査取消処分への支援も、全国的な視野で展望しています。

 不当な指導監査は決して対岸の火事ではありません。健康保険法が施行されて86年、この間姿を変えることなく官僚主義的思想で貫かれた指導監査の改善なくして、憲法25条に基づく「国民のための医療」は実現できないと考えます。国民医療の充実を願う多くの先生方のご参加をお待ちしています。

 

 

(C) 2008- 指導・監査・処分取消訴訟支援ネット